KH Chronicle

1975年生まれ。サッカーのことを多めに書いています。医療と経済にも興味があります。

iPS細胞を使った創薬が初めての治験段階へ

医薬品に興味がない人にはあまり興味のないニュースだったかも知れない。もしかするとこのブログを読むまで、そんなニュースあったの?というような題材かも知れない。しかし、間違いなく大きな前進だと思う。

医療に革新をもたらすiPS細胞を新薬の開発に使う「iPS創薬」が実用段階に入った。京都大学iPS細胞研究所の戸口田淳也教授は1日、筋肉の中に骨ができる難病の治療薬候補を発見し、臨床試験(治験)を9月以降に始めると発表した。iPS細胞で見つけた候補薬を実際の患者に試すのは世界で初めて。再生医療と並ぶ応用が大きく前進し、iPS細胞研究は新たな局面を迎えた。
iPS創薬 実用段階 京大が初の治験へ、難病向け開発素早く  :日本経済新聞


iPS細胞というのは、体のあらゆる細胞に育つ万能細胞だ。この細胞を、医療に活かす方法には2通りある。一つは、皮膚や臓器を再生して移植する方法。この分野では理化学研究所の網膜再生が有名な話だ。

もう一つの使い道は、臓器を再生させて、そこに薬が効くかどうかスクリーニングをかける方法。今までは、マウスやサルを使って動物実験を行い、少数の健常人に治験をし(第1フェーズ)、少数の患者(第2フェーズ)、多数の患者(第3フェーズ)というステップを踏んで薬は開発されていた。

iPS細胞を使うことによって、動物実験をしなくてもその疾患部位を再生して、薬が効くかどうかをダイレクトに試すことができるのだ。これを画期的と言わずして何というのだろう。

日経新聞でニュースになったのは、京都大学が「進行性骨化性線維異形成症」という疾患に対して、iPS細胞を使い、スクリーニングを行ったのだ。この病気は非常に珍しい病気で、日本人だと200万人に1人の割合で罹患する。国内では約80名ほどしか患者がいない。しかし、筋肉の中に骨が出現するという、やっかいな病気なのだ。

京都大学はこの病気に対して、iPS細胞を使い、スクリーニングを行った。そこで効果があると判定されたのが、ラパマイシンという免疫抑制剤だった。既存薬である。とても面白い思ったのが、ラパマイシンが既存薬であると言うことだ。そこにあった薬が実は効果があったなどと言うことは、iPS細胞ができるまでわからなかったことなのだ。これだけで大いにiPS細胞の価値がある。

まだ治験の段階なので、ラパマイシンがこの病気にどれくらい効果があるのかはわからない。安全性の評価もこれからだ。しかし、確実に前進が見られる。80名の患者さんも希望が見えてきたのではないか。